大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)438号 判決 1974年12月17日

原告 柳田光司

<ほか五名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 江口保夫

同 古屋俊雄

同 斉藤勘造

同 梶山公勇

同 松崎保元

被告 戸田建設株式会社

右代表者代表取締役 戸田順之助

右訴訟代理人弁護士 岡田喜義

同 大野金一

被告 鉄建建設株式会社

右代表者代表取締役 大石重成

右訴訟代理人弁護士 鵜沢勝義

同 鵜沢秀行

主文

原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告柳田光司に対し金四九〇万円、原告柳田百合子に対し金一〇〇万円、原告柳田敬一郎、原告柳田敬二郎および原告幸田弘に対し各金五〇万円、原告伊藤克夫に対し金四〇万円ならびに右各金員に対する昭和四七年二月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

主文と同旨の判決。

(当事者の主張)

一  原告らの請求原因

1  原告柳田光司(以下単に「原告光司」という。)は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、その一階において中華料理店、二階において喫茶店をそれぞれ自営し(従業員五名使用)、三階を従業員の部屋に、四、五階を、妻原告百合子、長男原告敬一郎、二男原告敬二郎とともに居宅にそれぞれ使用している。原告幸田弘は、本件建物の三階の部屋に住込みながら右中華料理店にて働いている者、原告伊藤克夫は本件建物の二階の喫茶店において店員として勤務している者である。

2  被告戸田建設株式会社(以下単に「被告戸田建設」という。)は、昭和四四年春より本件建物の南東側で国電新橋駅前広場において、京急新橋駅地下駐車場の建築工事(以下「本件駐車場建設工事」という。)を請負い、その施工をなしてきているもの、また被告鉄建建設株式会社(以下単に「被告鉄建建設」という。)も、時を同じうして、右新橋駅前で本件建物の南西側の広場において、東海道本線線増新橋地下駅新設工事(以下「本件地下駅建設工事」という。)を請負い、その施工をなしてきているものである。被告らは右両工事の各現場と本件建物とは、いずれも歩車道(約二〇メートル)をはさんで隣接している。

3  被告戸田建設および同鉄建建設は、昭和四四年春より前記各工事の施工として各現場において、基礎工事の施工として各現場において基礎工事、地下掘削作業、基礎配筋コンクリート打込み、そして工事現場の道路に敷いた鉄板の取りはずし等の工事をなし、その施工は連日徹夜作業によってなされた。

右工事のために、本件建物の周囲に大きな地震にでも見舞われたと同様の大きな激しい振動を生ぜしめ、かつ夜も眠れぬ程に騒音を生ぜしめた。

4  原告らは、昭和四四年八月ころから昭和四六年一月ころまでの間の、とくに午後一二時から午前六時までの夜間、右工事による振動と騒音のために、次のような被害を蒙った。

(一) すなわち、本件建物の三階に住込んで前記店舗に働いている従業員四名は、右振動と騒音のために夜も眠れない日が続きかつ一日騒音の中に身をおいて働かざるをえなかったため、体力を消耗し、過酷な労働条件の下に陥る結果になり、店をやめてしまったが、新規に店員を雇い入れることも困難な状況になり、店の営業に支障をきたし、かつ原告らに過当な労働がかゝった。

さらに、被告らの前記工事に起因する騒音と振動は、原告方顧客に不快感危険感を与え、その結果原告方の顧客は激減し営業利益を失ってしまった。さらに、日常の家庭内での会話、来客との会話および電話もできない状態に原告らを陥し入れた。

そのため、ついに原告らは、前記住込みの従業員を含めて全員本件建物での住居生活を続けることは、もはや不可能となり、昭和四五年六月ころに本件建物から他所に宿泊場所を変えることを余儀なくされてしまった。

このように、原告らは、被告らの前記工事により、静隠かつ快適な生活を侵害され、筆舌に尽しがたい耐えがたい精神的肉体的苦痛を蒙ったが、その具体的内容は次のとおりである。

(1) 原告光司(大正一〇年四月一一日生)は、これまで病気一つしない強健な体力の特主であったのに拘らず、右の激かつ大なる振動と騒音のために、夜間長時間にわたり睡眠不足になって不眠症に陥り、かつ日中は右工事による騒音と振動の中に身をおいて仕事をしなければならなぬ状況に追い込まれ、その結果体力を消耗して疲労がたまり、ついに昭和四五年八月糖尿病、脳軟化症および脳卒中後遺症に罹って倒れ、昭和四五年九月三日より一〇月一八日まで東京医科大学病院、同年一一月三日より同月三〇日まで小川赤十字病院に各入院し、その後自宅療養や通院をして目下治療中である。

(2) 原告柳田百合子(大正一〇年七月一日生)は、妻および母として家庭内の仕事を担当するとともに、中華料理店で働いていたものであるが、振動のために台所の食器棚にあった皿、茶碗等の食器が振り落されたり後記のとおり部屋の床や壁に亀裂を生じたり、さらにからかみが動かなくなったりの被害を蒙り、安眠を妨害されるなど静穏かつ快適な家庭生活を侵害された。

(3) 原告柳田敬一郎、同敬二郎(いずれも昭和二五年一月三日生)は、昭和四四年当時いずれも立正大学と二松学舎大学の二学年に在学して経済学を勉強中であったところ、騒音と振動により勉強および安眠を妨害され、静穏かつ快適な生活を侵害された。

(4) 原告幸田弘(昭和五年一月一日生)は、騒音と振動により夜間の睡眠を長時間にわたり妨害され、昼間の労働中にも睡魔に襲われ、疲労感が激しくなり、前記中華料理店での仕事を継続することが肉体的にも困難な状態になり、静穏かつ快適な生活を侵害された。

(5) 原告伊藤克夫(昭和二六年七月二一日生)は、騒音と振動の中で長期間にわたり勤務しなければならぬ結果になり、静かな労働環境の中で労働できなくなり、疲労も大きくなり、静穏かつ快適な労働環境を侵害された。

(二) 本件建物は、昭和四三年一〇月に完成された何ら瑕疵が存しない新築建物であったが、被告らの工事による振動によって一階ないし五階の各階にある部屋の床および壁、さらに各階に通ずる階段廊下に亀裂が行じてしまったのみならず、本件建物全体が斜めに傾斜してしまい、その補修復元を余儀なくされた。

5  原告らは、以上のような精神的・肉体的および物的被害を蒙り、次のような数額の損害を蒙った。

(一) 原告光司

(1) 慰藉料 金二三七万円

(2) 本件建物の補修復元費 金二六〇万円

(3) 弁護士費用 金六〇万円

原告らは、工事現場の責任者を通じて被告らに対し、振動や騒音を出さないよう要請したが、被告らは実効性ある措置をとらなかったので、止むを得ず、自己の権利を擁護するため訴訟を提起することを余儀なくされ、昭和四六年一二月二七日原告ら訴訟代理人弁護士らに証拠保全の申立および本件訴訟の提起を委任した。そして、原告光司は、右弁護士らに対して、着手金として金一五万円および成功報酬金として金四五万円を支払う旨約束し、昭和四七年一月一八日着手金一五万円を支払った。

(4) 鑑定人費用 金二〇万円

原告らは、本件訴訟のための証拠保全申立事件(東京地方裁判所昭和四六年(モ)第一四四四七号)につき、鑑定費用として昭和四六年九月二九日金二〇万円を予納した。

以上合計金五七七万円。

(二) 原告柳田百合子、同敬一郎、同敬二郎  慰藉料 各金一七八万五〇〇〇円

(三) 原告幸田弘  慰藉料 金一〇〇万五〇〇〇円

(四) 原告伊藤克夫  慰藉料 金八五万五〇〇〇円

6  以上のような原告らの各種損害は、被告戸田建設および同鉄建建設が、前記4項の期間とくに夜間において、故意または過失により不完全な工事管理のもとに本件駐車場建設工事および地下鉄建設工事を強行した不法行為のために生じたものである。

したがって、被告らは共同不法行為者として、被告らの右工事によって原告らが蒙った前項の損害を賠償すべき義務がある。

7  よって、被告らは各自、原告光司に対し、不法行為による損害賠償金として、金五七七万円のうち金四九〇万円、原告柳田百合子に対し金一七八万円五〇〇〇円のうち金一〇〇万円、原告柳田敬一郎、同敬二郎に対し各金一七八万五〇〇〇円のうち各金五〇万円、原告幸田弘に対し金一〇〇万五〇〇〇円のうち金五〇万円、原告伊藤克夫に対し金八五万五〇〇〇円のうち金四〇万円および右各金員に対する訴状送達の翌日である昭和四七年二月一日から各支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  被告戸田建設

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1項の事実は知らない。

(二) 同2項の事実のうち被告戸田建設が本件駐車場建設工事を請負いその施工をなしたことは認めるが、右工事現場と本件建物との間隔の点は争う。但し、建築工事着手の年月日は昭和四四年八月初旬であり、本件工事現場と本件建物との間隔は最短距離のところで二〇メートルである。

(三) 同3項の事実のうち、被告戸田建設が本件駐車場建設工事について、夜間作業をしたことは認めるが、その騒音震動の程度および作業の継続時間、期間等は争う。

(四) 同4項の事実はいずれも否認。なお、本件建物には、本件駐車場建設工事着手前に亀裂等が生じていたものである。

(五) 同5項の事実のうち、証拠保全の申立があったことは認めるが、鑑定人費用の予納の点および弁護士に委任の点は知らない。その余の事実は争う。

2  主張

(一) 本件駐車場建設工事は、被告戸田建設が昭和四四年七月訴外京急新橋地下駐車場株式会社(以下「訴外京急」という。)から請負ったもので、東京都港区新橋二丁目(新橋駅東口)敷地面積四、七六八・六四四平方メートルに、鉄骨鉄筋コンクリート造自動車地下駐車場および街路(国鉄新橋駅および都営第一号地下鉄線の連絡通路)延面積一〇、六三五・一五二平方メートルを新築する工事である。

(二) 被告戸田建設は、昭和四四年八月本件駐車場建設工事に着手し、昭和四七年三月二四日に完成したが、右工事の概要は次のとおりである。

(1) 路面から地下一八メートルから二三メートルのところまで穿孔して鉄骨を立て込み、最深部から五メートルのところまでコンクリートを流し込んで支柱を作る、さらに路面から五〇センチ位下げて支柱と支柱との間に梁を連結してコンクリート打ちして路面とする(これを路面工事という。)。出来上った路面は地上交通路とする。その後は地下工事に移り本件駐車場を完成する。右路面工事は、第一ないし第三期に区分して行われたが、第一期工事の路面工事が出来上るまでは第二・第三期工事予定の路面を地上交通路とし、第一期の路面が出来上ると、この出来上った路面と第三期工事予定の路面を地上交通路とし、その間第二期工事の路面工事に着手完了する、という漸次路面工事を完了する工法を採用した。

(2) さらに、交叉点等交通量の最も輻輳する場所では路面工事をABCの各ブロックに区分して作業した。各ブロック毎に路面から地下一八メートルないし二三メートルまで穿孔して、そこにH型の仮土留杭、中間杭を立て込み、H型杭とH型杭との間に桁を連結し且つ連結した桁の上に鉄板を設置して仮の路面とする(これを路面覆工工事という。)。出来上った仮路面は地上交通路とする。その後は地下工事に移り、地下作業をしながら仮路面を本路面とする工法を採用した。

(3) 本件駐車場建設工事のうち、地上工事は右路面工事および路面覆工工事が主で、この路面工事・路面覆工工事完了後は地下工事となる。そして、前記路面工事および路面覆工工事は、地上の交通障害防止のため必然的に夜間作業となり、かつ短日月の間に緊急に施工する必要があった。右路面工事および路面覆工工事完了後は、地下工事に移行するため附近の住民に騒音震動の影響がないので昼夜兼行で行われた。

(三) 騒音・振動の防止処置(非難性の欠如)

(1) 地上工事については、夜間作業の必要性と緊急性がある。新橋東口駅附近の昼間における交通量は都内でも屈指の場所で昼間の交通障害防止処置は絶対に必要である。そこで、被告戸田建設は、これが交通障害防止処置として前項記載の如き工法を採用し、もって路面における夜間作業の早期完了、騒音防止、交通障害防止に最善の努力をした。

被告戸田建設は、本件駐車場建設工事に当り、騒音震動等の防止軽減について、開発されている工作機械等のうち最善といわれる機械を駆使して騒音振動等の防止に努力した。すなわち、

(イ) 穿孔工事について、リバースサーキュレーションドリル、アースオーガの機械を駆使することによって騒音振動等を皆無にすることに成功した。

(ロ) 路面のコンクリート、舗装等の破壊作業についてコンクリートブレーカ、コマンド等の機械の使用を後記の如く午前二時で打ち切ることによって夜間における騒音振動等の防止に最善の努力をした。

(2) 右地上工事終了後は、地下作業に移行するが、地下工事は前記のように路面工事および路面覆工工事完了後である故に外部に対する騒音振動等全然ない。

(四) 本件事業の公共性

本件駐車場建設工事の発註者である訴外京急は、東京都市計画自動車駐車場事業および同街路事業の実施について、昭和四三年四月二〇日付で建設大臣から建設省四二東都計発第二六七号をもって特許され、さらに昭和四四年六月九日付で東京都知事から四三首計二施収第一一六号をもって認可されたものである。したがって、本件事業は東京都の交通行政上緊急を要するものであり、公共の福祉を唯一の目的とする公益事業であり、右事業の中で本件駐車場建設工事がなされたものである。

(五) 正当行為(違法性の欠如)

仮りに、本件駐車場建設工事によって多少の騒音等があったとしても、右工事は騒音防止法その他法令条令等に準拠してなされたものである。被告戸田建設は前項のような本件事業の目的、性質に鑑みて自己の営利を度外視して、前記のような地上交通障害防止、路上夜間作業の緊急と騒音等防止措置について現在の技術的、経済的の面において許容された最大限の努力をした。このような事情のもとにおいては、本件駐車場建設工事によって多少の騒音を発生させたとしても、右工事の目的、性質からして、被告戸田建設が不法行為としての違法性を帯びないものと考えるべきである。

(六) 違法阻却事由

(1) 夜間作業について原告らの承認

被告は、前記路面工事着工前に、原告らその他地域住民と東海銀行会議室において会合し、夜間作業で騒音振動等を発する機械の使用について午前二時までとすることに合意した。右合意により被告戸田建設は、騒音振動を発する機械の使用を午前二時で打ち切った。

(2) 宿舎斡旋に対する原告らの拒否

被告戸田建設は、昭和四五年四月ころ、前記Aブロック(原告らにもっとも接近している場所)の路面覆工工事に着工したが、その際原告らから「騒音のため睡眠が充分にとれないから、適当な場所を斡旋して貰いたい。」との申入れがあったので、新橋西口にある旅館「一声館」を斡旋したところ原告らから拒絶され(その夜は、原告らが勝手に「ホテル大倉」に宿泊し、被告戸田建設において右宿泊料を支払わせられた。)、さらに三田の閑静な新築宿舎を斡旋したところこれも拒絶された。右のように原告らの拒絶は、騒音発生の場所に自らの意思で住み込むようになったもので、いわば本件騒音の渦中に自らの意思で進んで居所を構えたものである。このように、原告ら自らの意思で招いた損害について被告戸田建設に損害賠償義務がないというべきである。

三  被告鉄建建設

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1項の事実のうち、原告幸田弘、同伊藤克夫に関する点は知らないが、その余の事実は認める。但し、本件建物の床面積は、登記簿上一階ないし四階までは四二・二〇平方メートル、五階は二一・四七平方メートルである。

(二) 同2項の事実は、被告戸田建設に関するものを除き認める。

(三) 同3項の事実のうち、被告鉄建建設がその主張の日時ころより本件地下駅建設工事(初期の仮設工事)を実施していることは認めるが、その余は否認する。

(四) 同4項は事実のうち、(一)の(1)の原告光司の病名および(二)の本件建物が昭和四三年一〇月に完成されたものであることは認めるが、その余はすべて知らない。

(五) 同5項の事実のうち、原告らが本訴に先立ち証拠保全の申立をなしたとの点は認め、弁護士に委任の点および鑑定人費用の予納の点は知らない。その余の事実は争う。

(六) 同6、7項は争う。

2  主張

(一) 本件地下駅建設工事は、被告鉄建建設が訴外日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)から請負った、従来の新橋駅東口本屋を取りこわし、地下五階の地下鉄を建設し、地下二六メートルの地点に地下駅のホームを設置する工事であって、東京方第三光和ビル前附近地点のこれまでに行った主な工事の拠要は次のとおりである。

(1) 地上工事

埋設管路切廻し工事 昭和四四年八月一日より八月二九日まで。

杭打用布堀り工事 同年八月二九日より九月三〇日まで。

土留連続杭打設工事

国鉄用地内より坂本武の店前までの車道横断部分

同年八月一日より同月二八日まで。

その他の部分 同年九月一日より一〇月中旬まで。

路面打上、路面覆工工事 昭和四五年一月中旬より二月中旬まで。

(2) 地下工事

一次掘さく工事 昭和四五年二月中旬より三月中旬まで。

深礎掘さく柱躯体施工 同年三月上旬より六月末まで。

F1~F5躯体工事 同年八月上旬より昭和四六年八月中旬まで。

F1スラブ防水工事 昭和四六年七月中旬より八月下旬まで。

(3) 地上工事

路面覆工、てっ去工事 昭和四六年八月下旬より八月末まで。

街渠復旧工事 同年九月より一二月末まで。

(二) 右工事のうち、土留連続杭の打設工事については、日東式ドーナツオーガー機を使用して、鋼管螺施埋設工法を採用したもので、これは無騒音、無振動の杭打工法として現在の土木工法上最良の方法といわれているもので、原告主張のような騒音、振動を生じるものではない。すなわち、右工法は、基礎杭として打設しようとする鋼管をドーナツオーガーの親オーガーの駆動する掘進機構に取付け、この管内にドーナツオーガーの子オーガーを挿入組合せ、鋼管は左回転で、子オーガーは右回転で削孔掘進し、支持層に達した後、オーガーの先端よりセメントミルクを注入して管の土壌をソイルセメント状にし、鋼管パイルを掘進機構より取外し埋設する方法である。ドロップハンマーやデーゼルハンマーを使用する従来の杭打方法と異なり無騒音、無振動の工法である。

地下工事については、すでに地上の路面覆工後に地下にて実施しているものであるので、地上に騒音を発生させるおそれはなく、土留杭設置後は振動についても原告らの本件建物に及ぶことはなかった。

なお、作業時間は、道路上については交通規制の関係から午後一〇時から午前六時までとなっているが、連日連夜実施したものではなく、原告ら居住建物附近での作業というのは極めて短時間にすぎない。

(三) 騒音・振動の防止対策

本件地下鉄建設工事は、前面に商店、駅ビル等があり、後方には東海道線新幹線の高架橋があるため、騒音振動については、施主である国鉄より特に注意するようにとの指示があり、被告鉄建建設としてもこの点については十分注意し、無騒音、無振動の杭打工法であるドーナツオーガー機を使用して作業してきた。

また作業中の騒音測定の結果も、取締法規の基準内に保たれていた。殊に振動については、新幹線高架橋に添う工事で高架橋橋脚に与える影響が大きいため特別に注意し、新幹線高架橋や、市街地改良ビル駅前二号館、第三光和ビル、地下鉄銀座線の構築物に打点式自記記録器をつけた沈下計や傾斜計等を設置し、新幹線高架橋や建物の沈下や傾斜について常時機械により看視するという方法をとってきた。そして、工事着工以来現在まで、工事区域に一番近い新幹線高架橋や第三光和ビルについては勿論、その他の前記建物のいずれも傾斜や沈下について何らの異常をみていない。

(四) 本件工事の公共性

本件地下駅建設工事は、国鉄第三次長期計画のうち東海道本線東京品川間線増工事の一部である。

近年来、東京周辺地区への人口の集中の目ざましいものがあり年々通勤輸送量は膨張の一途をたどっている。国鉄としては、東京周辺の通勤輸送力の増強をはかる一つとして第三次長期計画に基づき東京小田原間に複線を増設するものであるが、そのうち東京品川間は現在の東海道線の横に高架橋をつくるのが困難のため地下鉄道として建設するものである。この工事が完成すれば湘南電車と横須賀電車は各々専用の線路を運転されることとなり、通勤電車の増発も可能となって通勤時の混雑も緩和されることとなり、また東海道線(地下路線)と総武線(地下路線)とが東京地下乗降場を通り直通運転をすることができるようになる。

したがって、本件地下駅建設工事は、右線増工事の一部分として極めて公共性の強い工事である。それゆえ被告鉄建建設としては、近隣の居住者に対して市街地のため技術的には極めて困難な工事であるが、最新の土木技術を駆使してなるべく迷惑をかけないようにして昭和四七年内に完成する旨の説明を行ない、これまで協力を得て、着々と工事を進行したものである。

四  被告らの主張に対する原告らの認否

1  被告戸田建設の主張(一)(二)項の事実は知らない。

同(三)の(1)項の事実は争う。

同(四)項の事実のうち、本件事業が公共の福祉を唯一の目的とする公共事業であるとの点は否認し、その余は知らない。

同(五)の事実は争う。

同(六)の(1)項の事実は争う。同(2)項の事実のうち、原告らがその主張のごとき申入れをしたこと、被告戸田建設より旅館(名称不知)や三田の宿舎の提供があり原告らがこれを拒絶したこと、原告らがホテル大倉に一夜泊ったことはいずれも認めるが、それらの時期が路面覆工工事の際であったかどうかは知らない。その余の事実は否認。原告らが右旅館を拒絶したのは、その施設のそまつなことはともかく部屋には鍵がかからず、営業の売上金(現金)を持参しているところから、現金の保管上適当でなかったからであり、三田の宿舎を拒絶したのは、帰りのタクシー代が高額になるほか乗車拒否等で事実上乗車しにくかったからであり、いずれも理由なく拒絶したものではない。ホテルに泊ったのは被告戸田建設において宿屋を提供できないというので、同被告の了解のもとに泊ったもので原告らが一方的に泊ったものではない。

2  被告鉄建建設の主張(一)の事実は知らない。

同(二)項の事実のうち、地下工事について地上の路面覆工後に実施しているとの点および地上に騒音を発生させるおそれはないとの点は知らないが、その余の事実は争う。

同(三)項の事実のうち、被告鉄建建設が騒音・振動について十分注意をしたとの点、ドーナツオーガー機を使用作業したとの点および騒音が取締法規の基準内に保たれていたとの点はいずれも否認し、その余の事実は知らない。

同(四)項の事実のうち、極めて公共性の強い工事であるとの点および最新の土木技術を駆使してなるべく迷惑をかけないようにして昭和四七年内に完成する旨の説明を行ったとの点はいずれも否認し、その余の事実は知らない。

(証拠)≪省略≫

理由

一  被告らの各工事と原告らの居住地

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められこれを左右する証拠はない。

1  被告戸田建設は、昭和四四年七月訴外京急から、東京都港区新橋二丁目(新橋駅東口)敷地面積四、七六八・六四四平方メートルに、鉄筋コンクリート造自動車地下駐車場および街路(国鉄新橋駅および都営第一号地下鉄線の連絡通路)延面積一〇、六三五・一五二平方メートルを新築するという本件駐車場建設工事を請負い、昭和四四年八月右工事に着手し、昭和四七年三月二四日に至り完成させた。また、被告鉄建建設は、国鉄から、右同所にある従来の新橋駅の東口本屋を取りこわし、地下五階の地下鉄を建設し地下二六メートルの地点に地下駅のホームを設置するという本件地下鉄建設工事を請負い、昭和四四年八月右工事に着手し、昭和四九年一一月ころ完成させる予定である。そして、本件建物は、右各工事現場の附近にあり、本件駐車場建設工事現場の北側境界線からもっとも近い地点(建物の南東角)で約一一・一メートル(水平距離)、本件地下駅建設工事現場の東側境界線からもっとも近い地点(建物南西角)で約一〇・七メートル(水平距離)にある。

2  原告光司は、右各工事が始まる前から通称「銀楽ビル」なる本件建物を所有して、その一階において中華料理店、二階において喫茶店をそれぞれ自営し、三階を従業員の部屋に、四、五階を妻原告百合子、長男同敬一郎、二男同敬二郎とともに居宅に使用している。また、原告幸田弘は、前記各工事が始まる前から、右三階の部屋に住込みながら中華料理店にて働き、原告伊藤克夫は、右二階の喫茶店において店員として働いている。

二  各工事による騒音の発生と程度

1  本件駐車場建設工事について

≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。

(一)  被告戸田建設は、本件駐車場建設工事現場である新橋駅東口附近が昼間における交通量が都内でも屈指の場所であったために、広場全体の地下工事を一度に施工することが極めて困難なので、同被告主張(二)の(1)記載のように路面工事を行うに際しては、時期的に第一ないし第三期工事に分けて施工し、また本件建物附近のように交叉点等交通量の最も幅湊する場所についてはABCの各ブロック別に区分して作業を進め、順次一部については地上交通路を残し、その後の路面覆工工事についても、同被告主張(二)の(2)記載のように常に地上交通路を確保するという工法を採用した。地上工事は、右の路面工事および路面覆工工事が主で、その後は地下工事に続行するが、右の路面工事・路面覆工工事は前記のとおり地上の交通障害を防止するため、必然的に夜間作業に及ぶことが多かった。

(二)  右工事のうち、地下工事については、地下駐車場の天井ができてから進行するので、本件建物附近に及ぶような騒音・振動を発生させる工事はほとんどないが、地上工事について原告ら主張の夜間の騒音・振動と関連しそうな工事は、本件建物にもっとも近いAブロック区域を中心とする次の工事である。

昭和四四年八月一〇日ころから同年九月五日ころまでの試掘工事では、夜間一〇時から一二時ころまで(一二時を超えることはほとんどなかった。)、平均一日一時間半程度、アスファルト舗装部分等を壊すためにコンプレッサー、コンクリート・ブレーカーを使用したが、右機械は舗装部分の固さにもよるが、三〇メートル離れた地点で七五ホン前後、一〇メートル離れた地点では八〇ホン前後の騒音を発生することがある。

同年一〇月中旬から一一月中旬ころまでの嵩上工事では、夜間でも路面上を小型ブルトーザー、タイヤローラー等を動かすので、これからエンジン音等が発生する。

同年一一月中旬から昭和四五年一月ころまでの夜間の布掘工事では、舗装部分を壊すときコンプレッサー、レッカー等を使用するのでこれから騒音が発生し、また右の際、大きく掘削し五〇センチ角位に砕いたアスファルトをバスケットに入れてダンプカーに積み込むので、そのとき「ドスン」という音と多少の振動を他に伝えることがある。

昭和四五年二月ころから始まった杭打ち工事では、従来の騒音・振動の高いパイプ・ハンマーをやめ、アース・オーガ等を使用したので、これから騒音が出る可能性ほとんどなくなり、ただその際、一番の下から一メートル位のところまではハンマーで打つこともあるから、これから騒音が発生することもある。

また杭抜きのときは、騒音が出ないが振動がある場合がある。しかし、被告戸田建設は、右の振動の発生を防ぐために一部の杭(本数は明らかでない。)を埋めてしまった。

昭和四五年三月ころから九月ころまでの路面覆工工事では、明け方(午前四・五時ころ)にハイドロ・クレーンで、覆工板(一枚二七〇キログラム位の鉄板)を一枚づつ敷いてゆくが、最後の一枚が入らないときもあり、そのようなときはハンマーで叩くことがあるのでこれから金属音が発生することがある。

2  本件地下鉄建設工事について

≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。

(一)  被告鉄建建設は、本件地下鉄建設工事のうち本件建物に近い東京方第三光和ビル前附近について、昭和四四年八月から同被告主張(一)の(1)ないし(3)記載のような日程・順序で施工していったが、前記1の工事と同じ理由から夜間工事をもなした。しかし、とくに本件建物に近いところの地上工事(地下駅開削)は、昭和四四年から昭和四五年にかけてであり、右の夜間工事のうち騒音の出る工事は午前二時までに終っている。地下工事においては、本件建物に及ぶような騒音・振動を発生させる工事がない。

(二)  右地上工事のうち布掘工事に際しては、コンクリート・ブレーカを使用するので騒音が発生するし、路面覆工工事(二〇日間位)でも前記1ののような騒音が出ることもある。

(三)  土留鋼管抗とモルタル抗(全体で一、二〇〇本)を打つ工事は、無騒音・無振動といわれるドーナツオーガーによる柱列連続土留壁工法を採用したので、多少の金属音以外ほとんど騒音がなく、振動も全くない。とくに振動については、工事現場が国鉄新幹線、営団地下鉄線に近いので、施主である国鉄からの要望もあり、新幹線の高架橋、本件建物より数十メートル現場に近い第三光和ビル屋上、駅前二号館ビル屋上の三ヶ所に沈下計と傾斜計を設置して自動的に振動等による影響の有無を確めたが異常をみなかった。

3  原告らの受けた被害について

(一)  原告らは、昭和四四年八月ころから昭和四六年一月ころまでの間でとくに午後一二時から翌朝六時までの夜間、被告らの前記各工事(以下両工事を「本件各工事」という。)によって、日常の家庭内での会話や電話もできない程に高い騒音と、大きな地震にでも見舞われたと同様の大きな激しい振動に連日見舞われて、夜も眠れない日が続き、労働ができなくなり、健康を害し、あるいは本件建物に損害を受けた等と主張しているが、≪証拠省略≫によっても、未だ原告らがその主張のような大きな騒音・振動による被害を受けたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、①≪証拠省略≫によると、原告光司は、本件各工事の期間内である昭和四五年八月、糖尿病、脳軟化症および脳卒中後遺症に羅って倒れ、その後原告ら主張の請求原因4の(一)の(1)項記載のように入院・通院をし、現在も治療中であること、②≪証拠省略≫によると、本件建物は、昭和四三年一〇月に新築完成されたものであるところ、(この点は被告鉄建建設との間で争いがない。)、昭和四六年一一月一日になされた証拠保全事件における鑑定人の調査では、その一階ないし五階の各部屋の床および壁に亀裂が生じていたこと(原告らは、本件建物が斜めに傾いた旨主張するが、これを裏づける証拠はなく、かえって≪証拠省略≫によると右事実がないことが認められる。)をそれぞれ認めることができる。

しかし、右①については、一般的に騒音・振動が人体に対する生理的作用としても悪影響をおよぼし、それが長く続いたり強い場合には、これが病気の誘発ないしは悪化の原因となることも否定しえないところであるが、≪証拠省略≫によると原告光司は本件各工事が始まる前から糖尿病に羅っていたことが認められ、かつ同原告の病気が騒音・振動に原因して発病しあるいは悪化したことを認めるに足る証拠はないし、また②については、≪証拠省略≫によると、被告戸田建設が昭和四四年一〇月一八日本件建物を調査した際にも、既にその各階の床および壁に同様の亀裂が生じていたことが認められる(≪証拠省略≫中には、右亀裂は本件各工事前にはなかった旨の供述部分があるが到底信用できない。)から、これら事実から考えれば、前記①②の各事実も原告ら主張のような程度の騒音・振動の存在を裏づけるものではない。

(二)  そして、前記1・2項の本件各工事による騒音・振動が、どの程度原告らの居住する本件建物内に侵入したかは、これを具体的に数値で表わす資料は何もない。しかし、前述した本件各工事の規模、内容、採用した工法、右工事に使用した機械から発生する騒音・振動の程度、工事現場の広さと本件建物までの距離および本件建物の構造等の事実に、次に認められる事実を併せ総合して考えると、昭和四四年八月ころから昭和四五年九月ころまでの間の数日間、夜間午後一二時以降においても、本件各工事による騒音・振動がある程度断続的にせよ本件建物内に侵入し、原告ら(居住しない原告伊藤克夫を除く。)が睡眠を妨げられ、ために不快感、不安感等をもつに至った事実を推認することができる。すなわち

(1) 前記1・2項記載の事実に≪証拠省略≫を併せ考えると、昭和四四年夏ころ本件建物内に、コンクリート・ブレーカー等から発生すると思われる機関銃の音のような騒音が侵入し、昭和四五年夏ころまでの間、夜間数回、本件建物およびこれより後方数メートル離れた吉村ビル(鉄骨四階建)内に「ドスン」という騒音が侵入し、また窓が「ガタガタ」鳴る程度の振動が数回あったことが認められる。

(2) ≪証拠省略≫によると、被告鉄建建設では本件地下鉄建設工事現場でコンクリート・ブレーカーを使用して、本件建物附近(屋外)の地点で、右による騒音を測定したところ、七〇ホン以下であったことが認められる。

(3) ≪証拠省略≫によると、昭和四五年夏ころ、被告戸田建設が路面覆工工事を施工している際、仕事の関係で午前一時ころ就寝する原告ら(原告伊藤克夫を除く。)が明け方の右工事による騒音に目を覚まされ睡眠を妨げられる旨抗議したところ、同被告の現場担当者は、右騒音が前記1の(二)の記載のような原因によるものであることを説明し、右作業が終るまで原告らに旅館を提供する旨申し入れたこと(しかし、原告らは、同被告の提供した旅館を施錠した部屋がないとの理由でことわり、同被告の費用負担においてホテル大倉に宿泊し、その後提供された三田の宿泊所も遠方でタクシー代がかゝる等の理由でことわった。)が認められる。

三  本件各工事の違法性について

1  ところで、人の生活上とくに夜間における静穏は必要不可欠のものであり、これが生活上の利益として法的保護に値するものであることは言うまでもない。しかし反面、今日の社会生活においては多少の騒音・振動を発生させることは避けられないところであるから、被害者としても、相隣者あるいは社会の一成員として、これを受忍しなければならない限度があり、したがって、騒音・振動による被害があっても直ちに加害行為がすべて違法と評価されるものではなく、被害の程度、その地域性、加害行為の社会的価値およびその防止設備の有無等を考慮して、被害者が相隣者あるいは社会の成員として受忍すべき限度を超えている場合に限り、右加害行為が違法と評価されるものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、

(一)  本件振動は前記のとおり極めて軽微のものであり、また本件騒音による損害は、数日間断続的に睡眠を妨げられたという程度である。もっとも、騒音による被害は、感受性の違いなどにより個人差も大きくなるものであるから、原告らが右程度の騒音より強い不快感・不安感等の精神的苦痛を惹起されたことも想像するに難くない。しかし、≪証拠省略≫によると、本件各工事は前記のとおり大規模なものであり、かつその現場は広範囲のものであって、附辺には建物(ビル)が多くあるのに(約半分に人が居住している。)、被告らに対し具体的に騒音等による苦痛を訴えたのは原告光司の家族およびその従業員だけであることが認められ、また、≪証拠省略≫によると、前記吉村ビルに居住する小泉も、本件各工事による騒音を受けたが、当初不快感をもったものの直ぐ慣れることができる程度の騒音であったことが認められる。

(二)  ≪証拠省略≫によると、本件建物附近は国鉄新橋駅東口前の繁華街の一角であり、工事前から、日中はもとより夜間でも深夜遅くまで駅前広場に出入りする自動車が多く、近くに新幹線が通り、深夜午前一時ころまで国電が走行しているなど、もともと交通機関による騒音が相当程度ある地域であり、被告鉄建建設が昼間本件建物附近(屋外)で測定した結果では、新幹線による騒音が八五ホンに達していたことが認められる。

(三)  ≪証拠省略≫によると、本件駐車場建設工事は、その施主である訴外京急が被告戸田建設主張(三)記載のような特許・認可を受けた東京都都市計画自動車駐車場事業および同街路事業の一環としてなされたもの、また本件地下駅建設工事は、国鉄第三次長期計画のうち東海道本線東京品川間増線増工事の一部としてなされたものであることが認められるから、本件各工事がいずれも公共の要請に基く極めて公益性の強いものであることが明らかであり、こかが同時に当該地域の美観を高め発展を促す点において原告らにも間接的に受ける利益がないわけではない。

(四)  ≪証拠省略≫によると、被告らは、いずれも本件各工事を、道路の占有・使用の許可条件として付された夜間作業としてなしたが、右夜間工事を進めるに際して、附近住民に対して説明会を開催して工事内容を説明し、その際の附近住民の要望により、騒音の発生する土木建設機械を午前二時以降使用しないことを約束し、これを遵守して、騒音規制法に定める手続等をとったこと、また従来の騒音・振動の高い機械の使用を避け、技術的に最善のものを使用するなど、その防止対策についても一応とっていたものと認めることができる。しかして、以上の点を考慮するならば、本件各工事による騒音・振動によって原告らの受ける前記程度の被害は、社会通念上受忍すべき限度内にあるものと解さざるを得ないから、被告らの本件各工事を不法行為として構成することはできないものというべきである。

四  むすび

そうだとすれば、原告らの本訴請求は爾余の点を判断するまでもなく理由がなくいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤歳二)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例